爆発するのか、しないのか - 超新星爆発の鍵を握る流体現象とは何か?-


写真1:1987年に観測された超新星爆発

写真1:1987年に観測された超新星爆発
写真右下に突然、明るい超新星が現れました。

「超新星」といわれるひときわ明るい星が、空に突然現れることがあります。これは、太陽よりも大きな質量の星が、その最期に起こす大爆発の姿だと考えられています。しかし、2011年6月の月刊JICFuSで、国立天文台の固武 慶(こたけ・けい)助教(当時)は計算機の中では「超新星はまだ爆発していません」と語っていました。それは、様々な物理現象を取り入れた1次元コンピュータシミュレーションでは、この現象を再現できないということでした。しかし、計算機性能の向上に伴い、徐々に現実的な3次元計算による爆発の再現の可能性が見えてきました。そんな中、対流、定在降着衝撃波不安定性(SASI)、乱流といった流体現象が爆発に影響を与えるのではないかと注目されています。京都大学基礎物理学研究所の岩上 わかな(いわかみ・わかな)研究員に、その理由を聞きました。

超新星爆発のメカニズム

「超新星爆発(写真1)にはいくつか種類があって、どのような最期を迎えるかは、星の重さや成分によって決まります」と岩上さん。超新星爆発には、大きく分けて重力崩壊型と炭素爆燃型の2種類があり、岩上さんは主に重力崩壊型について研究しています。重力崩壊型超新星爆発とは、太陽の8倍以上という重たい星が最期を迎える時に起こる爆発で、その名の通り、自らの重さ(重力)に耐えられなくなって起こる爆発現象です。

図1:ニュートリノ加熱説による超新星爆発のシナリオ

図1:ニュートリノ加熱説による超新星爆発のシナリオ
岩上さんが注目してきたのは、(f)から(g)にかけて発生すると考えられている「流体力学的な不安定性」である。一度エネルギーを失った衝撃波が、ニュートリノ加熱によって復活する際に生じる。超新星爆発では、(g1) 衝撃波の内側にある物質がニュートリノ加熱によって運動する「対流」と、(g2)衝撃波が歪んで振動したり回転したりダイナミックに運動する「SASI」という、2種類の「流体力学的な不安定性」が見られる。さらに、ニュートリノ加熱によって駆動される乱流も発達すると考えられている。(提供:岩上わかな)

今もっとも有力とされている超新星爆発のメカニズムは「ニュートリノ加熱説」です。そのプロセスは次のように考えられています(図1)。(a)星の中では、水素を燃料に核融合反応が起こっています。そこで作られたヘリウムを燃料にさらなる核融合反応が起こって、炭素や酸素など重たい元素がつくられていきますが、安定な鉄元素ができると、これ以上核融合反応は進まなくなります。(b)鉄コアの中心部は非常に高温・高密度になっているので、鉄は熱さに耐えられず分解を始め、鉄原子核由来の陽子が電子を吸収して、中性子とニュートリノという素粒子になる反応が起こります。その結果、星を支える圧力が低下し、星は自らの重みに耐えられなくなりつぶれます(重力崩壊)。(c)重力崩壊が進むにつれて、星の中心部にニュートリノが閉じ込められて少しずつしか逃げ出すことができない領域(ニュートリノ球)が作られます。(d)さらに、重くて硬い原始中性子星(PNS)ができます。この原始中性子星に周囲から降ってくる鉄がぶつかると、衝撃波が発生します。(e)衝撃波は外側へ向かって進もうとしますが、(f)途中でエネルギーを奪われてしまい、爆発には至りません。(g)しかし、勢いを失った衝撃波は、ニュートリノ球から少しずつ放出されるニュートリノが中性子と反応する際に発する熱によって再加熱され、復活します。(h)こうして復活した衝撃波が星の外縁部に達すると、星は爆発し、地上で超新星が観測されるのです。
一方、炭素爆燃型は、白色矮星が起こす爆発です。白色矮星は、重力崩壊型超新星を起こす星よりも軽い星から作られます。軽い星の内部でも核融合は起こっていますが、鉄ほど大きな元素をつくることはありません。そのため中性子星にはならず、代わりに炭素と酸素からなる白色矮星になります。この白色矮星の近くに別の星があると、その星から白色矮星に向けてガスが降り注ぎ、最終的に爆発するのです。

*いろいろな星の最期については、2011.07.21「星の最期を探る」(国立天文台 滝脇 知也 専門研究職員)を、ニュートリノ加熱説については、2011.06.01「超新星爆発のかぎをにぎるニュートリノ」(国立天文台 固武 慶 助教)をご覧下さい。

非球対称性が爆発の鍵

コンピュータの発展に伴い、世界中でニュートリノ加熱説に基づいたシミュレーションが行われるようになりました。ところが、計算が正確になればなるほど、超新星は爆発しなくなっていきます。「超新星爆発で起こっているさまざまな現象を、可能な限り精密に計算しているにもかかわらず“爆発が起こらない”と、多くの研究者が頭を悩ませていたようです」と岩上さん。原因は、超新星爆発という現象には、衝撃波にエネルギーを与え爆発へと向かわせる過程のほかに、エネルギーを奪って衝撃波を弱める過程が含まれていることでした。
それがここ十年ほどで、星を完全な球と想定する1次元から、回転楕円体だとする2次元や実際の形状を表現できる3次元での計算が可能になったことで、2次元や3次元の効果が爆発を起こしやすくするということがわかってきたのです。岩上さんは、「2次元や3次元での計算が1次元と異なる点は、星の回転、磁場の効果、そして対流などの流動現象をシミュレーションに取り入れられるようになったことです」と説明します。ニュートリノによる再加熱によって対流が起こります。この対流によるかき混ぜ効果が、再加熱の効率を上げ、爆発を起こしやすくしているのです。

定在降着衝撃波不安定性(SASI)という流体現象

図2:SASIの成長メカニズム

図2:SASIの成長メカニズム
渦と音波が衝撃波と原始中性子星の間を行き来することで、衝撃波が歪んでいく。(提供:岩上わかな)

「対流のような流体力学的な不安定性の発達が、爆発するか爆発しないかを決めている要因の一つらしいことがわかってきました。そして、計算機性能の向上に伴い発見された不安定性が、定在降着衝撃波不安定性(SASI:Standing Accretion Shock Instability)です」と岩上さん。
SASIは以下のような現象です。停滞している衝撃波に向かって、速度や密度に“乱れ”がある物質が降ってきます(図1fと図2)。この乱れをきっかけに衝撃波は少しだけ歪み、同時に渦が作られます。渦は流され、原始中性子星付近で歪められると、その周辺で音波が発生します。発生した音波は衝撃波に到達して衝撃波をさらに歪ませ、より大きな渦を作り出します。この繰り返しにより、歪みが徐々に成長し、衝撃波はダイナミックに運動するようになるのです。
SASIには2つのモードがあります。対称性を維持したまま衝撃波が上下に振動するスロッシングモード、対称性が破れて衝撃波が回転するスパイラルモードです(図3)。岩上さんは、「SASIは対流よりもダイナミックな動きをするところが興味深いと思っています。重力波やニュートリノの観測で特徴的な波形が観測されるかもしれない」と、特にSASIに注目しています。

Fig3leftFig3right

図3:SASIの2種類のモードと対流
シミュレーション結果を「エントロピー」という量(オレンジ)で可視化したもの。エントロピーは、爆発的に膨張しているところで大きな値をとる。矢印は、流れの向きと速さを示しており、緑が濃いほど速度は遅い。SASIのスパイラルモードには右または左に回転する流れがあるが、スロッシングモードはある軸に沿って振動する流れがある。(提供:岩上わかな)

実は、ごく最近まで、超新星爆発の不安定性の研究は混とんとしていました。対流とSASIの区別が明確でなかったためです。超新星爆発を研究する世界中のグループがシミュレーション結果を発表していますが、実に多様です。それらの違いは、対流支配的な場合とSASI支配的な場合があるために起こるのではないかと考えられています(図4)。さらに、「ニュートリノ加熱によって対流が発達すると、SASIが成長しなくなってしまうことがあるのです」と岩上さんは話し、対流やSASIが発達する条件を探っています。

図4:対流支配的(左・中)とSASI支配的(右)な超新星爆発

図4:対流支配的(左・中)とSASI支配的(右)な超新星爆発
対流支配的な爆発では、対流を反映するマッシュルーム状の膨らみがいくつも現れる。SASI支配的な爆発では、より大きな構造が現れる。

爆発メカニズムの真実に迫る

Iwakami-300x200流体力学的な不安定性が、超新星が爆発するかしないかの鍵を握っているかもしれないということで、爆発直前の流体現象の解明が進められてきました。「2次元や3次元計算によると、対流支配的な場合やSASI支配的な場合、あるいは両方が混ざったような状況も起こりうることがわかっています。しかし、現実的な計算でどの場合がどういった割合で発生するかはわかっていません。今のところ、爆発時には対流支配的になるケースが多いようだという印象はあります。星の進化計算から得られる爆発直前の星のモデルを用い、乱流を捉えられるほどの高解像度計算を行い、さらにニュートリノの輸送をより精密に計算して加熱量を正確に見積もることができるようになれば、いずれ明らかになると思います。そのためには、スーパーコンピュータ「京」が必要不可欠です。」と岩上さん。爆発メカニズムを解明するまでにはまだ多くのステップを踏まなければならないようです。
現在、京都大学の長倉 洋樹(ながくら・ひろき)研究員、早稲田大学の山田 章一(やまだ・しょういち)教授、沼津工業高等専門学校の住吉 光介(すみよし・こうすけ)教授、高エネルギー加速器研究機構の松古 栄夫(まつふる・ひでお)助教ら、それぞれ得意分野をもつメンバーとともに6次元ボルツマン方程式によるニュートリノ輻射輸送流体計算コードの開発と高速化を進めており、2015年にはスーパーコンピュータ「京」で本格的なシミュレーションを開始します。
1次元シミュレーションで超新星が爆発しない時代は終わりました。今後は、より現実に近い爆発を再現させるために、対流やSASIをはじめ、より細かな現象の解明が求められることでしょう。どこまで超新星爆発の真の姿に迫ることができるのか? 「京」によるシミュレーションが新たな発見をもたらすかもしれません。超新星爆発の研究は新たなステージに入る予感がします。