拠点長挨拶

 計算基礎科学連携拠点(JICFuS)は、2009年2月、スーパーコンピュータを使った計算基礎科学を進める3機関、筑波大学計算科学研究センター、高エネルギー加速器研究機構、国立天文台が立ち上げた研究組織です。2014年12月には5機関、2020年6月にはさらに5機関が加わり、現在は13機関の連携組織に拡大しています。JICFuSは、素粒子・原子核・宇宙・惑星物理分野の計算科学をリードする存在として、さまざまな科学的成果を創出するとともに、計算科学推進体制の構築や分野振興活動を行っています。

 JICFuSは2016年3月までの5年間、HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」の実施母体として活動してきました。スーパーコンピュータ「京」を使い、クォーク質量の精密決定、原子核構造計算の飛躍的進歩、中性子星連星合体における磁場増幅の解明、ダークマター粒子の重力進化計算など、多くの研究成果をあげました。また、計算機資源の効率的マネジメント、人的ネットワーク形成、次世代の研究課題発掘などの研究体制構築、および戦略的な広報活動など分野振興の面でも大きな成果をあげました。研究開発は2016年4月からポスト「京」重点課題(9)「宇宙の基本法則と進化の解明」に引き継がれてさらに新たなテーマが加わり、QCD相図、新粒子「ダイオメガ」の予言、原子核構造の理論計算、ダークマター分布や連星中性子星合体の内部状態のシミュレーション、ブラックホール・シャドウと多波長スペクトル計算などの成果をあげています。
 また、ポスト「京」萌芽的課題:太陽系外惑星(第二の地球)の誕生と太陽系内惑星環境変動の解明「生命を育む惑星の起源・進化と惑星環境変動の解明」で行われてきた惑星科学分野も加わり、2020年度から「富岳」成果創出加速プログラムの領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓において、「シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで」および「宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統一的描像の構築」の2課題を実施していくことになりました。これまでの研究・アプリ開発の成果を活かして、スーパーコンピュータ「富岳」からの速やかな研究成果創出を目指します。

 スーパーコンピュータ「京」とそこでの研究活動により、計算基礎科学分野は長足の進歩を遂げました。個別の研究の進展はもちろん、素粒子・原子核・宇宙分野の研究交流と協力が進んだことも今後の研究を発展させる上での大きな成果の一つであり、計算基礎科学連携拠点は重要な貢献をしてきました。
 2020年からは惑星科学分野の研究者も加わり、スーパーコンピュータ「富岳」での研究に向けて協力を深めていく計画です。本来、科学に境界はありません。さらに他分野との連携にも積極的に取り組みたいと思います。

 現在、スーパーコンピュータ「富岳」での成果創出がもっとも重要な課題になっているところですが、科学者としてはさらにその先に目を向ける必要があります。素核宇宙惑星分野がこれまで行ってきたコデザイン、計算機科学者との共同研究の経験をもとに、次世代の計算機開発にも積極的に貢献します。計算機をつかって科学に変革を起こすためには、現在の延長線上ではない別の方向が必要になるかもしれません。次の大きなステップに向けて、将来の夢を語り、実現していく。計算基礎科学連携拠点をそういう場所にしていきたいと思います。

2020年9月
計算基礎科学連携拠点長 橋本省二