太陽系惑星形成論が持ち越してきた問題に挑む


Kominami-300x200太陽系の惑星(図1)はどのようにして現在の姿になったのかをシミュレーションする太陽系惑星形成論研究。「太陽系の惑星形成の研究はかなり進んでいます。ところが、現在知られている惑星形成のシナリオには、いくつかの問題点が残されています。最近の私の研究成果と、スーパーコンピュータ「京」の計算能力をあわせれば、その問題点を解消するようなシナリオがもしかしたらみえてくるかもしれません」と語るのは、東京工業大学地球生命研究所 産学官連携研究員の小南淳子(こみなみ・じゅんこ)さん。最新の研究成果とこれから取り組む研究についてお話を伺いました。

図1:太陽系の惑星(出典:The International Astronomical Union/Martin Kornmesser)

図1:太陽系の惑星(出典:The International Astronomical Union/Martin Kornmesser)

太陽系惑星形成シナリオが抱える問題点

図2:太陽系の惑星が衝突合体を繰り返して成長する様子。「微惑星」が成長して火星サイズの「原始惑星」ができ、さらに衝突合体をして、現在の惑星の姿になったと考えられている。それぞれの過程で確からしいと認められいるシミュレーションが確立している。(Greenberg et al. 1978, Wetherill and Stewart 1989, 1993, Kokubo and Ida 1996, Inaba et al. 2001; Makino et al. 1998, Kokubo and Ida 1998; Weidenschilling et al. 1997, Kokubo and Ida 1998, 2000, 2002; Chambers and Wetherill 1998, Agnor et al. 1999, Iwasaki et al. 2002, Kominami and Ida 2002)

図2:太陽系の惑星が衝突合体を繰り返して成長する様子。「微惑星」が成長して火星サイズの「原始惑星」ができ、さらに衝突合体をして、現在の惑星の姿になったと考えられている。それぞれの過程で確からしいと認められいるシミュレーションが確立している。(Greenberg et al. 1978, Wetherill and Stewart 1989, 1993, Kokubo and Ida 1996, 1998, 2000, 2002, Weidenschilling et al. 1997, Makino et al. 1998, Chambers and Wetherill 1998, Agnor et al. 1999, Inaba et al. 2001, Iwasaki et al. 2002, Kominami and Ida 2002)

太陽系の惑星は、太陽系の形成初期にあった微惑星が衝突と合体を繰り返して、現在のサイズに成長したとされます(図2)。微惑星が火星サイズの原始惑星にまで成長し、さらに衝突合体を繰り返して地球のような惑星が形成されると考えられています。

しかし、このシナリオには問題点がいくつか残されているそうです。

第一に、微惑星が形成されるよりも前、ガス円盤内で微惑星が形成されていく過程はいまだ明らかになっていません。例えば、ガスの乱流を考慮に入れると、微惑星は形成されない可能性が出てきます。ですから現在は、微惑星ができることを前提としたシミュレーションで研究されています。

第二に、地球上に存在する水がなぜ0.02重量%なのか説明できていません。現在の惑星形成シナリオで計算すると、地球にはもっと多くの水が存在している計算結果が得られるのだそうです。

第三に、太陽系の外縁部に位置する海王星や天王星の形成過程は、実は明らかになっていません。外縁部に位置する惑星を現在の惑星の大きさまでその場で成長させようとすると、太陽系の年齢を超えてしまいます。海王星や天王星は太陽に近い所で形成されて外側に移動して現在の姿になった、などの特殊な惑星形成シナリオも考えられていますが、定説となるものはまだありません。

そのほかにもいくつかの問題はありますが、小南さんは、この3つの問題点を解決する新たなシナリオを提案できるかもしれないと考えています。というのも、小南さんの最近の研究で、面白いシミュレーション結果が得られたからです。

新たにわかった太陽から遠い惑星の挙動

小南さんは海王星より遠い領域の惑星形成の仕方について研究をしてきました。

二つの物質に働く引力を考えるとき、太陽に近いと太陽に支配される割合が大きくなります。太陽から遠く離れると自分の引力が効く割合が大きくなります。つまり、太陽から遠く離れたほうが、近くに岩のような物質が来たときに捕獲しやすいことになります。

小南さんは、太陽から遠い領域にある3万体の物質に太陽からの重力、粒子間の相互重力といった力が働いた場合、どのように衝突合体が起きるかをスーパーコンピュータでシミュレーションしました。すると、地球付近と海王星より遠い領域では、衝突合体の様子が違うことがわかりました。

動画1:連星系の形成。中央の黒い微惑星に青い微惑星が近づいてくるが、青い微惑星は黒い微惑星と連星にならずに去っていく。赤い微惑星が黒い微惑星の回りをクルクルと回る。この赤い微惑星と黒い微惑星が連星になる。AU(天文単位)は太陽と地球の平均距離を表し、約1.5億km。

動画1:連星系の形成。中央の黒い微惑星に青い微惑星が近づいてくるが、青い微惑星は黒い微惑星と連星にならずに去っていく。赤い微惑星が黒い微惑星の回りをクルクルと回る。この赤い微惑星と黒い微惑星が連星になる。AU(天文単位)は太陽と地球の平均距離を表し、約1.5億km。オリジナル:MPGE(76.5MB)

図3:太陽系外縁部の連星のできやすさ 赤い線は30AU(海王星の軌道付近)の1万年後の連星の累積分布。青い線は10AU(土星の軌道付近)の1万年後の連星の累積分布。縦軸は連星系の数、横軸は連星系の重さを表す。3AU、1AUでは、連星が1万年後にはなくなってしまう。

図3:太陽系外縁部の連星のできやすさ
赤い線は30AU(海王星の軌道付近)の1万年後の連星の累積分布。青い線は10AU(土星の軌道付近)の1万年後の連星の累積分布。縦軸は連星系の数、横軸は連星系の重さを表す。3AU、1AUでは、連星が1万年後にはなくなってしまう。

海王星より遠い領域では、「連星ができてから衝突する」現象が起こります。それは全衝突の2割を占め、そのような衝突が起こらない地球付近に比べて違いは明らかです。「連星」とは、二つの物質がくるくると回りながら太陽の周りを公転しているものです(動画1)。実は準惑星の冥王星とその衛星カロンも連星系といわれており、どのように形成されたかの研究が行われています。2割という数値は、初期条件によって変動します。海王星の領域では、連星を考慮しないと、惑星形成の時間が太陽系年齢以上の時間がかかってしまいます。しかし連星を考慮すると、形成時間はその数分の一から10分の一になり、太陽系年齢以内で天王星や海王星が形成される可能性がでてくるのです。つまり、太陽から離れた領域では、今まで考えられていた時間より短い時間で惑星が成長できることになります(図3)。

ブレークスルーへの期待

太陽から遠い領域で新たな知見を得た小南さんは、太陽からの距離が近いところから遠いところまでトータルにシミュレーションすることに挑んでいます。現在の惑星形成のシミュレーションは「地球型惑星(水星、金星、地球、火星)」「小惑星帯」「ガス惑星(木星、土星)」「氷型惑星(天王星、海王星)」といった領域で個別に進められています。

しかし、これでは領域間の相互作用は考慮に入りません。そこで小南さんは相互作用も考慮できるようにすべての領域にわたるシミュレーションをしようと考えています。
実は、多くの粒子が衝突合体を繰り返す様子を研究する「N体研究」はここのところあまり活発に研究されていませんでした。なぜなら、コンピュータの性能が上がらないと、これ以上複雑なシミュレーションへと研究を発展させられなかったからです。

小南さんは「京ならば計算できる」と考えています。太陽に近いところから海王星以遠の領域まで1000万体の物質が衝突合体をしていく様子を計算する計画です。

現在、計算コードをスーパーコンピュータ「京」仕様にチューニングしている小南さん。研究をしていて一番楽しいのは、思いもよらない計算結果が出たとき。「計算コードは間違っていなかったよね。」と計算式を確認して「大丈夫。大丈夫。それで、、、何がおこっているんだろう?」と結果をじっくり吟味します。京の計算でどのような「思いもよらない」結果が出てくるのか今からとても楽しみなのだそうです。