視点を活かして-素核宇宙融合レクチャーシリーズ

住吉光介
2014年1月10日(金)~11日(土)に、非専門家を対象とする素核宇宙融合レクチャーシリーズ第10回 「重力崩壊型超新星の爆発メカニズム:核物理と天文数値シミュレーションの連携」が開催されました。講師には、沼津工業高等専門学校の住吉光介(すみよし・こうすけ)教授を迎え、1日半にわたるレクチャーが行われました。参加者は38名でした。

はじめに天文学者と言うよりは宇宙原子核物理(Nuclear Astrophysics)学者の一員と自己紹介した住吉氏は、華々しい超新星現象の中心で、いったい何が起こっているのか、素粒子・原子核物理の観点から爆発メカニズムを解き明かすべく講義を行いました。超新星爆発メカニズムは原子核・宇宙物理学共通の長年の未解決問題です。太陽の10倍以上の質量を持つ重たい星が重力崩壊し、跳ね返った後に爆発すると考えられていますが、極限状況で起きる爆発メカニズムの鍵は未だ特定できていません。

超新星爆発では4つの力(重力・電磁力・強い力・弱い力)すべてが関与しており、全ての過程を数値シミュレーションに組み込んで、複雑なダイナミクスを解明しなければなりません。とりわけニュートリノや原子核などのミクロ物理が、重力崩壊から爆発へ至るダイナミクスにおいて重要な要素となっています。この観点から、爆発ダイナミクスの概略、中心コアにおける高温高密度物質とニュートリノ反応、ニュートリノ観測から探るクォーク・ハドロン物質、と超新星の内部世界を俯瞰していきました。最後には、超新星爆発のニュートリノ輻射流体シミュレーションがいかにHPCI資源を必要とするかの解説をしました。

会場の様子これまでの数値シミュレーションでは、重力崩壊から跳ね返って発生した衝撃波は、伝搬途中で停まってしまうため、これを復活させる必要があることが判っています。近年の研究では、中心コアから放出されたニュートリノによって衝撃波背面が再加熱されること(ニュートリノ加熱)が爆発に必要と考えられており、爆発メカニズム解明にはニュートリノ・核物理が絶妙な役割を果たしています。講義の中では、状態方程式とニュートリノ反応が爆発へ与える影響について詳しく説明しました。住吉氏が長年取り組んできた超新星物質の状態方程式データテーブルの応用例の中から、代表的なデータテーブルであるShen状態方程式とLS状態方程式の比較において、跳ね返って衝撃波が発生する時点ではShenが有利であるものの、衝撃波復活のためのニュートリノ加熱効率ではLSが有利となる例を示しました。住吉氏は、超新星爆発が起きる時には相反する効果が競い合うので、一つだけの効果が効くといった見方ではなく、複数効果の相互関係を検証する見方でなければ爆発原因の特定はできない、と述べました。

また、住吉氏とは別のアプローチで挑む固武・滝脇チームとの比較も行いました。固武・滝脇チームもHPCI戦略プログラム分野5のメンバーです。固武・滝脇チームは流体不安定性(対流や定在降着衝撃波不安定性SASI)を考慮して、ニュートリノ加熱領域に流体物質を長時間とどまらせる効果に着目しています。一方、住吉氏は、ニュートリノ核物理を詳細に組み込み、衝撃波背面におけるニュートリノ加熱効率を緻密に評価することにより、爆発メカニズムの解明をしています。どちらの効果が有力かはまだわかっていませんが、大切なことは、両者をバランスよく研究して原因を突き止めることです。住吉氏は素粒子(ニュートリノ・クォーク)、ハドロン(陽子・中性子・ハイペロンなど)、原子核、計算科学の研究者とも連携して研究を進めています。

住吉氏はこのレクチャーを通して「他分野の研究者の目で指摘してもらうことで、研究不足のところがあると気づきました。とてもためになりました」と語りました。受講生からは「原子核の研究が超新星爆発シミュレーションにどのように生かすことができるかを学びにきました。専門でない人もわかる話し方で勉強になりました」との感想が聞かれました。

この素核宇宙融合レクチャーシリーズは、分野融合を目的の一つとする新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」およびHPCI戦略プログラム分野5の共催で行われました。最終的にはシリーズをまとめた「素核宇宙融合教科書」の制作が予定されています。

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