格子QCDから核力、核力から多体系・超新星爆発を5日間で!


2012年7月27日(金)~31日(火)、京都大学基礎物理学研究所(基研)でサマースクール「クォークから超新星爆発まで—基礎物理の理想への挑戦—」が、筑波大学教授の青木 愼也(あおき・しんや)校長、理化学研究所主任研究員の初田 哲男(はつだ・てつお)副校長の元に開催され、受講生30人、講師・ティーチングアシスタント(TA)31人の参加がありました。

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初田 哲男 副校長

最初の講演で初田副校長は、「素粒子、原子核、宇宙分野の計算科学研究者の連携によって、物質の階層を超えた研究領域の形成が進められています。このサマースクールの目的は、このような研究活動を関連分野の研究者に幅広く知ってもらうことです。一人ひとりがスーパーコンピュータを用いて、最先端の研究である格子QCDによるハドロン質量の計算、格子QCDによる核力の計算、求めた核力を用いた原子核の多体問題の計算、核力に基づいた中性子星の計算をし、そして最後に超新星爆発をおこしてみましょう。楽しんでください!」と話しました。

5日間のサマースクールは、初日と2日目にオリエンテーションと素粒子パート、3日目は原子核パート、4日と5日目は宇宙パートとまとめに分けて行われました。各パートの初めには最前線で活躍している研究者の講義があり、その後実践講座に臨みます。

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橋本 省二 教授

初日から始まった素粒子パートでは、橋本 省二(はしもと・しょうじ)高エネルギー加速器研究機構(KEK)教授が、格子QCDシミュレーションの手法について簡単に説明した後、研究の現状について講義し、標準理論のほころびを探そうと呼びかけました。講義後には受講生からたくさんの質問が寄せられました。

続いてオリエンテーションがあり、実際にスパコンのフロントエンドにログインし、ユニックスコマンドを用いてディレクトリ間の移動やファイルのコピー、解凍などの基本的な作業と、gnuplot(グニュプロット)と呼ばれるグラフィックツールを用いて、格子QCDで計算された有効質量のデータのプロットなどをおこないました。

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講義終了後も熱心に質問する参加者と真剣に答える講師たち

休憩をはさんですぐに「格子QCDシミュレーションによるハドロン質量の計算」の実習が始まりました。2012年7月に公開された格子QCD共通コード「Bridge++」を用いて、CP-PACSコラボレーションによって生成された配位データからクォークの伝搬関数を解きハドロンの相関関数を組むプログラムを使って、π中間子、ρ中間子、陽子の質量を算出しました。実習に使われた配位データも格子QCD共通コードも公開されているので、興味をもった受講生は、スクール後も自分で研究を進めることができます。

実習の中心となった松古 栄夫(まつふる・ひでお)KEK助教は、「受講生は、Unixコマンドなどの操作に最初は慣れていない様子でしたが、慣れていくにしたがい、独自でグラフのプロットができるようになっていきました」と、受講生の成長ぶりに驚いた様子でした。

2日目の素粒子パートは、土井 琢身(どい・たくみ)理化学研究所研究員、石井 理修(いしい・のりよし)筑波大学准教授が中心となり、格子QCDによるニ核子間に働く核力の計算を行いました。ここで求める核力の値は3日目以降の原子核パート、宇宙パートにも使います。

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講義中もたくさんの質問が寄せられた

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受講者からの質問に答える石井 理修 准教授



120727-31summerschool-surasuraQCDから核力を求める問題は、QCDの生みの親の一人でノーベル賞受賞者の南部陽一郎(なんぶ・よういちろう)博士が、15年ほど前の著書で“QCDから計算によって核力を求めるのは無理な話だ”と書いているほどの難問でした。しかし、青木校長、初田副校長、石井准教授の研究により、2007年にブレークスルーがなされ、格子QCD計算によって核力が求められるようになりました。

受講生は、時折出される量子力学の問題にスラスラと答えたり、時には悪戦苦闘したりしながら、このブレークスルーについての理論的枠組みについて理解を進め、実際に格子QCDから核力を決定する計算を体験しました。

実習の中心となった土井氏は「分かっているからこそできる質問が多かった。受講生はみな優秀ですね」と、話しました。

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延與 佳子准教授

3日目の原子核パートは延與 佳子(えんよ・よしこ)京都大学准教授の「反対称化分子動力学法による原子核クラスター現象の解明」と題する講義からスタートしました。反対称化分子動力学法(AMD)では、基底状態のシェル模型から励起状態のクラスター模型、核子がバラバラでクラスターが存在しない状態までもシミュレーションすることができます。AMDにより不安定核をシミュレーションした結果、原子核の構造は陽子数、中性子数、エネルギーによって異なることを、図を見せながら説明し、不安定核研究の面白さを語りました。延與准教授の研究内容は原子核研究の最先端だけあって、講義後は受講生だけでなく、講師陣からも多くの質問が寄せられていました。

続く実践講座 原子核コースでは、肥山 詠美子(ひやま・えみこ)理化学研究所准主任研究員が中心となっておこなわれ、受講生は2日目に格子QCD計算から求めた核力を用いて、重陽子、3H、3He、4Heの2体系から4体系の計算に挑戦しました。

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3体系、4体系問題を説明する肥山 詠美子 准主任研究員

これらの少数系は、現実的核力の妥当性をチェックするために有効な系であると考えらており、これまで少数多体系分野で、さまざまな手法で計算されて来ました。なかでも、4Heの4体計算は現在も世界最前線の課題の一つでもあります。

4Heの束縛エネルギーの実験値は-28.4MeV。陽子と中性子がバラバラの状態である0MeVから、-28.4MeVに近づけるべく、2タイプのヤコビ座標に基づき、各方向の核運動量、アイソスピンなどの組み合わせを何通りも考えてパラメータとして入力し、束縛エネルギーをスパコンで計算しました。

一番実験値に近づけたのは、東京大学の谷崎佑弥さん。16個の組み合わせを見つけ、-27.9MeVまで下げることができました。「1組分かったら当たりをつけられたので、それほど苦労はしませんでした。コンピュータを使ったことがなかったのですが、技術として面白いと思いました」と、感想を話していました。

120727-31summerschool-photo肥山准主任研究員が最後に、27組の答えを見せると、受講生たちはカメラや携帯電話などで写真に記録し、自分の結果と見比べていました。肥山氏は「(自力で計算させるなど)締めるところは締め、最後には緩めて答えを教えました」と、講義を振り返りました。東京大学の宮城宇志さんは、「学部の量子力学では、解ける方程式だけを扱ってきました。解けない問題を無理やり解こうとすると探し出すしかなく、そこに職人技を見ました」と、原子核実習についての感想を話していました。多くの受講生から、自力で計算した原子核実習は印象深かったという感想が聞かれました。

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山田 章一 教授

4日目からはいよいよ宇宙パートが始まりました。はじめに山田 章一(やまだ・しょういち)早稲田大学教授から、超新星爆発の物理と数値シミュレーションについて講義がありました。山田教授は超新星爆発について詳しく解説し、超新星爆発と関連した高エネルギー現象は、われわれにハドロンとニュートリノ物理に関するかけがえのない情報を提供するでしょうと、話しました。

続いて住吉光介(すみよし・こうすけ)沼津工業高等専門学校准教授、鷹野正利(たかの・まさとし)早稲田大学教授、固武 慶(こたけ・けい)国立天文台助教、 滝脇 知也(たきわき・ともや)国立天文台特任助教、諏訪 雄大(すわ・ゆうだい)京都大学特任助教が中心となり、シミュレーションで超新星爆発を起こすことを目指して実習が始まりました。

120727-31summerschool-zentai前半は、2日目に求めた核力から中性子物質の一核子あたりのエネルギー(状態方程式)を求め、それを元に、中性子星内部の物質はどのような性質を持っているのかを系統的に数値計算をして調べました。次に非圧縮率Kの違いによる状態方程式の変化によって中性子星・超新星コアの性質がどのように変わるのかを調べ、状態方程式が爆発にどのような影響を与えうるのかを学びました。

後半は、いよいよ超新星爆発の数値シミュレーションに取り組みました。まず、1次元(球対称)の超新星爆発計算を行い、ニュートリノの効果の有無により爆発する/しないが大きく異なることを確かめました。最後に、受講生自らが選んだ非圧縮率Kの値で、2次元の超新星爆発シミュレーションの計算ジョブをスーパーコンピュータに投入して、この日の実習は終わりました。

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東京大学の宮城宇志さん。見事、超新星爆発を起こした

そして次の日の朝……超新星爆発を起こしていた東京大学の宮城宇志さんは満面の笑みで爆発のシミュレーションを見せてくれました。受講生の20%から30%が爆発させられましたが、他は爆発せずに、ブラックホールに至る例になってしまいました。しかし、この日の本番はこれからです。実際の研究でも、爆発したら終わりではなく、なぜ爆発したのか、しなかったのか、その原因を解析するのがシミュレーション後に必要なことです。受講生は計算データからムービーを作成するなどして、爆発すれすれの状況を解析しながら、爆発が多次元的に起こる様子について理解を進めました。超新星爆発では状態方程式が重要な鍵であることを学び、核物理と天体現象のつながりについて、シミュレーションで実感しました。こうして、クォークから超新星までの一貫したストーリーが完結しました。

諏訪氏は「本来のシミュレーションには1~2か月、解析に半年の時間がかかります。受講者は研究者と同じように、一晩、爆発するのか、しないのか、わくわくした気持ちを味わえたのではないかと思います。受講生が1つでもお家に持って帰れるものがあるのなら、やった甲斐があります」と、講師の荷を下ろして、感想を話しました。

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青木 愼也 校長「実はちょっと……」

最終日の午後は、青木校長による3講座のまとめと、修了書授与式がありました。実はこのスクールには驚きの真実が隠されていたのですが、それは参加者だけの秘密となりました。

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青木先生の告白を聞いて、参加者は笑いに包まれた。

青木校長は「夏の暑い中、本当にお疲れ様でした。このサマースクールがきっかけとなって、我々の分野に参入してくれる研究者が増えることを期待しています」と話し、最後に受講生一人ひとりに、校長から修了書が手渡され、サマースクールは無事終了しました。

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修了証書をもらう高橋和也さん

大阪大学で素粒子物理学を学ぶ冨谷昭夫さんは、「超新星爆発の研究者とはこれまで接点がなかったのですが、住吉さんとお会いでき、面白い話ができました」と、スクールでの出会いについて話しました。早稲田大学で天文学を学ぶ高橋和也さんは「クォークから始まって第一原理計算から中性子星をつくるという分野横断の流れを体験できました。細かい計算は分からなかったですが、雰囲気がわかっただけで勉強になりました。天文学にもマイクロフィジックスが重要であると確認できたのが良かったです」とスクールを終えての感想を話しました。

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