チャーム/ボトムクォークのふるまいから見えるハドロン物理の新展開

2012年6月18日(月)~29日(金)に滞在型の国際研究会「Heavy Quark Hadrons at J-PARC 2012」が開催されました。前半の部の1週間は東京工業大学大岡山キャンパスで、後半の部の1週間はKEK理論センターJ-PARC分室で行われ、国内外から52人の参加がありました。理論、実験、計算科学が連携してヘビークォークハドロンの研究に取り組むことにより、クォークと、クォークを結び付けるグルーオンの性質を記述した基本法則である量子色力学(QCD)の理解の大きな進展が期待されます。

前半の部は講演中心で、理論、実験、計算科学それぞれの最先端の研究成果と今後の課題が発表されました。理論からはエキゾチックハドロンを含むチャーム/ボトムクォークハドロンの現象論的解析など、実験からはKEK Bファクトリー実験で測定されたそれらの解析結果について、計算科学からはチャーム/ボトムクォークハドロンの格子QCDシミュレーションの現状と課題について発表があり、三者それぞれの現状と問題が共有されました。

三者の連携が進むことによって、QCDにおける未解決問題の解明が期待されています。軽いクォークのみを含むハドロンでは見えない新しい問題が、重いクォークを含むハドロンのふるまいから見えてくると考えられているからです。QCDがどのようにハドロンの性質を与えるかを見極めるためには、QCDにもとづいた理論値を求めて実験値と比較しなければなりません。計算科学には、チャーム/ボトムクォークハドロンの高精度な格子QCDシミュレーションが求められています。

後半の部は、前半で共有された現状や課題にもとづき、今後の研究課題についてワークショップ形式で議論されました。将来行われる、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のSuperKEKBプロジェクト、J-PARCの高運動量ビームラインを用いたチャームクォークハドロンを生成する実験開始に向け、チャーム/ボトムクォークの面白さを多くの研究者と共有し、研究の土台作りを始めることが話し合われました。

用語解説

J-PARC
J-PARC(Japan Proton Accelerator Research complex:大強度陽子加速器施設)は、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設し、運営を行っている最先端科学研究施設。ハドロン実験施設の他、物質・生命科学実験施設、ニュートリノ実験施設と、それぞれの実験施設にビームを供給するための加速器(リニアック、3GeVシンクロトロン、メインリング)がある。
ヘビークォークハドロン
クォークは素粒子の一種でアップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類ある。アップ、ダウン、ストレンジに比べて、チャーム、ボトム、トップの質量は重いので、これらはヘビークォークとよばれる。ヘビークォークを含むハドロンをヘビークォークハドロンという。
エキゾチックハドロン
クォーク4個以上からなる粒子。
KEK Bファクトリー実験
1999年~2010年にKEKで行われた世界最高性能の加速器実験。KEKB加速器で電子、陽電子を光速の99.9999998%まで加速して衝突させ、チャーム/ボトムクォークハドロンを生成し、Belle測定器で測定し、性質が調べられた。
格子QCDシミュレーション
QCDに基づいて実験値と比べられる値を求めるには、QCDを4次元の格子上で数値シミュレーションする。精度の良いシミュレーションをするためには、スーパーコンピュータを要する。
SuperKEKBプロジェクト
KEK Bファクトリー実験の40倍の性能向上を目指して準備が進められているプロジェクト。2014年度に加速器が本格稼働予定で、KEK Bファクトリーの50倍に達するチャーム/ボトムクォークハドロンのデータ蓄積を目指している。
高運動量ビームライン
高運動量ビームラインは、J-PARCのハドロン実験施設にて建設が計画されている、高運動量の粒子ビームを素粒子・原子核実験に用いるためのビームライン。
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