「J-PARCで展開されるハドロン原子核物理」研究会開催報告

6月10日~11日に、高エネルギー加速器研究機構(KEK)小林ホールで「J-PARCで展開されるハドロン原子核物理」研究会が開催されました。素粒子、ハドロン、原子核の研究者88人が参加し、活発な議論が交わされました。

大強度陽子加速器施設「J-PARC」は、KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が2001年から共同で建設を進めてきたものです。2009年には、中性子、ミュー粒子、ハドロン、ニュートリノを用いた世界最先端の実験を開始しました。しかし、東日本大震災で被害を受けたため、実験に少なからぬ遅れが見込まれています。

今回の研究会では、今年度中に実験が再開される「J-PARCハドロン実験施設」で展開される物理学について、理論、実験、計算科学が連携を図ることで、より効果的に研究を進めるための議論がされました。特にパネルディスカッションでは、実験研究者と理論研究者が日常的に情報交換や議論を行える環境作りを目的とした、J-PARC理論部の立ち上げについて検討されました。

研究会では様々な発表がありました。たとえばニュートリノ反応についてです。ニュートリノ・原子核反応の理解を深めることで、酸素原子核が関与するスーパーカミオカンデでのニュートリノ振動実験の正確な理解が得られ、ニュートリノ反応が寄与する超新星爆発研究の進展が期待されます。

実験施設名にもなっている「ハドロン」に関する研究も紹介されました。ハドロンはクォークにより構成される複合粒子で、3つのクォークからなるバリオン、クォーク・反クォーク1つずつからなる中間子などがあります。ところが近年、Belle実験などによって、クォーク4つのテトラクォーク、さらにクォーク5つのペンタクォークの存在が示唆されています。このようなハドロンが本当に存在するのか、存在するならどのようにクォークが閉じ込められているのか、などを探ります。

そしてメインテーマの1つが、ストレンジクォークを含む特殊なバリオンであるハイペロンや、中間子を用いて行われる実験です。ハイペロンの入った原子核を精密に観測することで、ハイペロンを含むバリオン相互作用の情報が得られ、原子核内で働く力(核力)の統一的理解につながります。また原子核構造の理解を深めることができます。

また、計算科学の手法である格子QCDによる第一原理計算によって、バリオン間相互作用などの研究が急速に進んでいます。HPCI戦略プログラム分野5では、2012年度から本格運用が始まる京速コンピュータ「京(けい)」を用いてさらに核力の計算を進めます。2014年度には、J-PARCハドロン実験と定量的に比較する予定です。

今後さらに理論、実験、計算科学の連携を深めることにより、J-PARCハドロン実験施設で展開される物理学の研究が推し進められることが期待されます。

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