宇宙の歴史は、137億年前にビッグバンと呼ばれる超高温・超高密度の状態から始まったと考えられています。その後、温度が下がるにつれて、陽子や中性子といったバリオンがクォークとグルーオンの束縛状態として作られます。次いで、陽子や中性子が結合して軽い原子核が生成されます。
一方、宇宙には、正体不明のダークマター(暗黒物質)がバリオンよりもはるかに大量に存在するとされています。宇宙は、始めにダークマターが重力により集まって構造を作り、それに引き寄せられて通常のバリオン物質が銀河や星を形成し、現在の姿になったと考えられています。銀河では、活発に星が誕生する一方、重力崩壊・超新星爆発などで死滅しています。この過程で、より重い原子核が生成されます。
このように、宇宙の構造形成の歴史と物質の生成史は密接な関係があります。
研究開発課題
HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」の目標は、ビッグバンに始まる宇宙の歴史の中で素粒子から原子核、星・銀河形成に至る物質と宇宙の起源と構造を統一的に理解することです。そのために、4つの研究開発課題を選びました。
(1) 格子QCDによる物理点でのバリオン間相互作用の決定
(2) 大規模量子多体計算による核物性解明とその応用
(3) 超新星爆発およびブラックホール誕生過程の解明
(4) ダークマターの密度ゆらぎから生まれる第1世代天体形成
これらの課題を、ピーク性能10ペタフロップスの京速コンピュータ「京」を用いて研究します。
計算科学推進体制の構築
基礎科学分野の計算資源の効率的な運用、人材育成、研究ネットワークの構築、分野を超えた連携などを進め、計算科学技術推進体制を構築していきます。
・京速コンピュータ「京」だけでなく、基礎科学分野で共同利用に供されているスーパーコンピュータを含めた全体の共同利用スキームを構築します。
・計算機の効率的利用を推進するために、計算機科学分野と協力してアルゴリズム開発やプログラム効率化の支援を行います。また、計算結果を効率的に活用するデータグリッドを開発・整備・運用します。
・基礎科学分野の研究や計算科学に関するスクールを行い、人材育成に努めます。国内外の研究ネットワーク強化や分野を越えた人的ネットワーク強化のために研究会やシンポジウムを定期的に開催します。また、ビジター制度を整備し、人材交流を促進します。