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(1)格子QCDによる物理点でのバリオン間相互作用の決定

格子量子色力学(格子QCD)計算は、強い相互作用におけるクォークから原子核にわたるマルチスケールの物理を、第一原理に基づいて統一的に解明する礎を与えます。
我々は物理的クォーク質量上での格子QCDシミュレーションを実現し、微細化とマルチスケール化を鍵とする新しい展開を目指します。微細化とは、電磁相互作用やアイソスピン対称性の破れの効果を取り入れたシミュレーションの実現を意味します。マルチスケール化とは、クォーク⇒ハドロン⇒原子核という強い相互作用における階層構造の物理を探ることを意味します。
とくに、格子QCDシミュレーションは原子核間に作用する核力の未知の姿を明らかにしてくれる強力な手段を提供しており、実験データが少ないハイペロン力や3体核力などについては計算でしか得られない革新的な成果が期待されます。
核力やハイペロン力は、研究開発課題(2)の中心テーマである不安定原子核・ハイパー核・中性子星の構造の解明の鍵であり、バリオン多体系に関する原子核の大規模計算においても重要な役割を果たします。これらの目標を組織的かつ効果的に達成するための具体的課題は以下のとおりです。

近年のアルゴリズム開発・計算機性能の向上により、格子QCD計算は誤差10%レベルの半定量的段階から誤差1%レベルの精密計算の時代へ移行しつつあります。格子QCDにおいて様々な物理量を計算する上での基礎となるものは、動的クォークの効果を含むゲージ配位の生成です。本課題においては、京速コンピュータ「京」を用い、QCDの基本パラメータであるクォーク質量の精密決定を行うとともに、原子核の構造研究に向け、大きな体積で物理的クォーク質量での配位生成を系統的に行います。

ここ数年、散乱位相に基づくハドロン間相互作用(共鳴状態を含む)の研究が、筑波大のグループを先陣としてようやく行われ始めました。現在は計算コストの問題により物理的な値よりも重いクォーク質量での計算に留まっていますが、「京」を使えば現実的クォーク質量における計算が可能となるはずです。まずはρ(770)、K*(892)、Δ(1232)などの実験的によく知られている粒子の解析を行った後、近年、実験で存在が示唆されている新しいタイプのクォーク複合系に散乱位相に基づく研究手法を適用し、未知の粒子の存在とその緒性質の解明を目指します。

格子QCDによる原子核の研究は、マルチスケールの物理探求を標榜する計算科学にとって挑戦すべき課題です。2006年に筑波大と東大の共同研究グループは、世界で初めて格子QCDから核力を導出することに成功しました。「京」では現実のクォーク質量での大規模ゲージ配位を用い、散乱実験から知られている核子散乱位相差を忠実に再現する核力の導出を行うとともに、ハイペロン−核子、ハイペロン−ハイペロン力など未知の相互作用に関しての定量的計算を行います。これらの結果は、研究開発課題(2)の大規模原子核計算の基礎データとして提供します。さらに、低密度での原子核構造や、高密度での中性子星構造に重要な役割を果たす3体核力についての本格的計算を、「京」で開始します。

また、核力の解明と異なるアプローチとして、格子QCDによる原子核の直接構成を目指します。まずは天体核現象や原子核構造論にとって最も基本となる量子多体系であるα粒子(4He原子核)の直接計算を行います。さらに挑戦的課題として、アイソスピン状態の違いによる重陽子束縛状態と散乱状態の違いを定量的に理解することを目指します。

構成メンバー

研究開発課題責任者
初田哲男 Tetsuo Hatsuda 理化学研究所仁科加速器研究センター 主任研究員

メンバー
藏増嘉伸 Yoshinobu Kuramashi 筑波大学数理物質系 教授/理化学研究所計算科学研究機構連続系場の理論研究チーム チームリーダー
石川健一 Ken’ichi Ishikawa 広島大学大学院理学研究科 准教授
石井理修 Noriyoshi Ishii 大阪大学核物理研究センター 准教授
石塚成人 Naruhito Ishizuka 筑波大学数理物質系 准教授
山崎 剛 Takeshi Yamazaki 筑波大学数理物質系 准教授
根村英克 Hidekatsu Nemura 筑波大学計算科学研究センター 准教授
佐々木勝一 Shoichi Sasaki 東北大学大学院理学研究科 准教授
土井琢身 Takumi Doi 理化学研究所仁科加速器研究センター 研究員
浮田尚哉 Naoya Ukita 筑波大学計算科学研究センター 研究員
滑川裕介 Yusuke Namekawa 筑波大学計算科学研究センター 研究員

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