原子核クラスター構造とは何か-素核宇宙融合レクチャーシリーズ

2月27日(月)~28日(火)に理化学研究所和光研究所で、素核宇宙融合レクチャーシリーズ「原子核クラスター構造とガス的量子凝縮状態」が開かれました。第5回目となる今回、講師をつとめたのは、原子核研究者の船木 靖郎(ふなき・やすろう)理化学研究所協力研究員。素粒子、原子核、宇宙分野の研究者16人の参加がありました。

船木さんは最初に、よく原子核の構造を示すのに用いられる図を示し、「これは原子核内の密度の飽和性を表すにはよい模型ですが、原子核を構成する陽子や中性子(核子)はこのような簡単な構造をしているわけではありません。原子核内部は、核子同士が力を及ぼしあいながらも自由に運動する、ガスや液体のような状態と考えられています」と、原子核の基本的な事柄から説明を始めました。

さらに原子核がエネルギーを得て励起状態になると、原子核は、陽子2個と中性子2個からなるα(α線、Heの原子核と同じ)をひとまとまりとする「クラスター構造」をとることが知られています。船木さんはこのような新しい構造形態の存在を明らかにするために、クラスター模型を用いて原子核に現れる新しい物質相の研究をしています。

船木さんの研究は、原子核研究者だけではなく、元素合成を研究する宇宙分野の研究者からも注目を集めています。私たちの体に欠かせない炭素原子や酸素原子が星の内部で作られる(元素合成)ときには、αが3つ結合して炭素原子核が、炭素原子核にαが結合して酸素原子核が生成されると考えられているからです。参加した研究者は、講義中だけでなく、休憩時間にも多くの質問を寄せていました。また、ホワイトボードの周りに集まり議論する姿も見られました。講師の船木さんは、準備が大変だったと言いながらも、「それぞれの研究分野を背景にした、質問やコメントがとても勉強になりました。このような機会をいただけて、ありがたいです」と話していました。

この素核宇宙融合レクチャーシリーズは、分野融合を目的の一つとする新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」およびHPCI戦略プログラム分野5の共催で行われました。分野を学び始めた大学院生や他分野(素粒子、原子核、宇宙物理)の研究者など非専門家向けのもので、最終的にはシリーズをまとめた「素核宇宙融合教科書」の制作が予定されています。

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