サマースクール「クォークから超新星爆発まで」開催報告

8月4日~8日、京都大学基礎物理学研究所(基研)でサマースクール「クォークから超新星爆発まで—基礎物理の理想への挑戦—」が、筑波大学教授の青木愼也(あおき・しんや)校長、東京大学教授の初田哲男(はつだ・てつお)副校長の元に開催され、受講生36人、講師・ティーチングアシスタント(TA)25人の参加がありました。


主催の1つであるHPCI戦略プログラム分野5は、素粒子から元素合成、星・銀河形成にいたる「物質と宇宙の起源と構造」を、計算科学の手法によって統一的に理解することを目標にしています。

初田哲男副校長

最初の講演で初田副校長は、「このサマースクールは、我々の研究を外部の研究者に幅広く知ってもらうことを目的に企画しました。コースに分けず、一人が、格子QCDシミュレーションからハドロンの質量と核力を求め、核力のシミュレーションから原子核構造を求め、原子核構造とその反応から超新星爆発シミュレーションを全て通して行うことは世界初の試みです」と、サマースクールの目的と特徴を話しました。

橋本省二教授

初日に行われたQCDパート1では、KEKの橋本省二(はしもと・しょうじ)教授が、格子QCDシミュレーションの基本的な事柄について講義しました。QCDは量子色力学とも呼ばれ、クォーク間に働く力に関する理論です。格子QCDシミュレーションでは時空を格子点に区切り、QCDに基づいてハドロンの質量やハドロン間に働く核力を計算して求めることができます。

続く「格子QCDシミュレーションによるハドロン質量の計算」の実習では、KEKの松古栄夫(まつふる・ひでお)助教が中心となって、格子ゲージ理論の枠組みとシミュレーションの原理の説明をしながら、プログラムを京大基研の大型計算機上で実行し、π中間子、ρ中間子、中性子の質量を算出しました。

受講生は大学4年生から准教授まで幅広く、中には作業の基本となるUNIXのコマンドを初めて使う受講生もいました。最初は慣れない作業に戸惑った様子でしたが、初日のうちに基本的な操作ができるようになりました。

2日目のQCDパート2は、東京大学の土井琢身(どい・たくみ)特任助教が中心となり、格子QCDによるニ核子間に働く核力の計算を行いました。

QCDから核力を求める問題は、QCDの生みの親の一人でノーベル賞受賞者の南部陽一郎(なんぶ・よういちろう)博士が、15年ほど前の著書で“QCDから計算によって核力を求めるのは無理な話だ”と書いているほど難しい問題でした。しかし、土井助教と共にQCDパート2を担当する、筑波大学の石井理修(いしい・のりよし)准教授、青木校長、初田副校長の研究により、2007年にブレークスルーがなされ、格子QCD計算によって核力が求められるようになりました。受講生はこのブレークスルーについての理論的枠組みについて学んだ後、実際に格子QCDから核力を決定する計算を体験しました。

中務 孝准主任研究員

同じ日に「核内核子の一粒子運動の基礎と密度汎関数理論」と題する講義も行われました。理化学研究所の中務 孝(なかつかさ・たかし)准主任研究員は、原子核が安定するマジック数や、原子核の変形など原子核の性質について説明し、原子核の性質を求める計算方法について話しました。

3日目の原子核パートは、理化学研究所の肥山詠美子(ひやま・えみこ)准主任研究員が中心となり、2日目に格子QCD計算から求めた核力を、重陽子、3H、3He、4Heの2体系から4体系の計算に適用しました。

これらの少数系は、現実的核力の妥当性をチェックするために有効な系であると考えらており、これまで少数多体系分野で、さまざまな手法で計算されて来ました。なかでも、4Heの4体計算は現在も世界最前線の課題の一つでもあります。

受講生は、初めての少数多体計算にチャレンジしました。2体、3体計算は難なくクリアしたようですが、Heの4体計算は角運動量の合成が複雑で、大変苦労をしていたようです。

TAの村野さん(左)と受講生の渡邉さん(右)

このように難題に頭をかかる受講生に、講師とTAは叱咤激励しながら、丁寧に解説していました。

この日の夜に行われた懇親会で、受講生の渡邉さんは「TAが丁寧に教えてくれたので、どうしたら計算ができるのかわかりました。うまく計算ができたことで、自分の専門でない分野にも興味を持てました」と、感想を述べました。醍醐さんは「勉強不足でした。これからは理論的な勉強に本腰を入れようと思います」と、今後の抱負を語りました。

自分の研究について語る受講生と
山田章一教授

4日目からは宇宙パートが始まりました。はじめに早稲田大学の山田章一(やまだ・しょういち)教授から、超新星爆発の物理と数値シミュレーションについて講義がありました。山田教授は超新星爆発のシナリオについて説明し、超新星爆発シミュレーションの成功から得られるハドロンやニュートリノ物理の知識は計り知れないものがあると話しました。

続いて沼津工業高等専門学校の住吉光介(すみよし・こうすけ)准教授、早稲田大学の鷹野正利(たかの・まさとし)教授、国立天文台の固武 慶(こたけ・けい)助教が中心となり、実習が始まりました。2日目に求めた核力から中性子物質の一核子あたりのエネルギー(状態方程式)を求め、それを元に、中性子星内部の物質はどのような性質を持っているのか、状態方程式の影響によって中性子星・超新星コアの性質がどのように変わるのかを調べ、状態方程式が爆発にどのような影響を与えうるのかを学びました。

「ほら、ここでバウンスしている。」 [拡大

その後は、お楽しみの超新星爆発の数値シミュレーションに取り組みました。まず、1次元(球対称)の超新星爆発計算を行い、ニュートリノの効果の有無により爆発する/しないが大きく異なることを確かめました。最後に、受講生が自ら選んだ状態方程式で、2次元の超新星爆発シミュレーションの計算ジョブをスーパーコンピュータに投入して、この日の実習は終わりました。

住吉准教授は「受講生のシミュレーションが成功してほしいと思います。受講生は、自分のシミュレーションが成功するか、失敗するか、ハラハラドキドキする研究者の気持ちを一晩味わうのではないでしょうか」と話しました。

次の日の朝、前日に投入した2次元の超新星爆発シミュレーション計算に基づいて、自分の選んだ状態方程式により、超新星が爆発したのか、爆発しなかったのか、その結果を知ることとなりました。計算データからムービーを作成するなどして、爆発すれすれの状況を解析しながら、爆発が多次元的に起こる様子について理解を進めました。超新星爆発では状態方程式が重要な鍵であることを学び、核物理と天体現象のつながりについて、シミュレーションで実感しました。最終日の午前までで、クォークから超新星までの一貫したストーリーが完結しました。

最終日の午後は、青木校長による3講座のまとめと、修了書授与式がありました。そこで参加者にしかわからないまさかの種明かし。「秘密のレシピ」なるキーワードのもと、笑いの絶えないまとめとなりました。青木校長は「このサマースクールでは、研究者が日々体験していること、うまくいったときの喜びやそこに至るまでの苦労を味わってもらうことを重視しました。これを糧に、みなさんが研究者として育っていくことを期待します」と締めくくりました。最後に、1週間がんばった受講生一人ひとりに、校長から修了書が手渡され、無事お開きとなりました。

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