重力波望遠鏡advanced LIGOが連星中性子星の合体の初観測に成功-数値相対論の計算結果とも整合

2017年8月17日、日本時間午後9時41分ころ、アメリカの重力波望遠鏡advanced LIGOが、合体に向かう連星中性子星(2つの中性子星からなる連星)が放射する重力波の観測に初めて成功しました。約74秒間にわたる観測でした。この現象は、観測日にちなみGW170817と呼ばれています。観測された重力波の解析によると、この連星の総質量は太陽の約2.75倍で、我々の銀河系内に存在する連星中性子星の総質量によく整合しています。そのため、連星中性子星の合体が観測された、と推定されました。またこの重力波源は、重力波の解析およびその後の光学追観測から、地球から約1.2億光年離れたレンズ銀河(NGC4993)に存在する、と特定されています。

連星中性子星の合体では、後述するように、重力波と共に電磁波が放射されて明るく輝くことが予想されていました。そのため、重力波観測直後から、多くの光学望遠鏡を用いた追観測が世界中で行われました。この追観測には、日本の観測グループも貢献しました。

連星中性子星の合体では、合体時に光速度の30%ほどの速度で中性子星同士が衝突するため、その直後に大量の物質が高速で飛び出すことが予想されてきました(図1参照)。さらに合体後には、高温でかつ高速で自転する、非常に重い中性子星が誕生しうることも予想されており、そのような残存天体からも大量の物質が噴き出してくると推測されていました(図1参照)。

図1:今回の合体現象の想像図
中性子星同士の合体によって、大質量中性子星がまず誕生する。その後、その周りには、トーラス(降着円盤)が誕生し、粘性流体効果により進化する。合体時、大質量中性子星の磁気流体進化過程、及びトーラスの粘性進化過程のいずれによっても、中性子過剰物質が噴出され、その後元素合成、放射性崩壊を経て光学的に輝く。今回光学観測されたのは、この噴出物質だと推定される。

これらの噴出物質は、中性子の塊である中性子星から飛び出してくるため、中性子を多く含む組成を持ちます。このような中性子過剰な状況では、原子核と中性子の核融合が急速に進み(速い中性子捕獲と呼ばれます)、大量の重元素が合成されます。ここで作られる重元素の中には、金、銀、プラチナ、レアメタル、ウランなど、我々のよく知る元素も含まれます。速い中性子捕獲で合成された重元素は、合成直後は放射性不安定なため、その後、ベータ崩壊や核分裂を起こします。すると、これらの崩壊に伴う熱により、噴出された大量の物質は高温に温まり、その結果、最終的に高光度で数日から数十日間輝くと予想されていました。そして、このような高光度の突発的な天体現象が、光学観測で確認されたのです。その結果、連星中性子星の合体が起きたことが確定でき、さらには大量の重元素が合成されたことも確認できたのです。

ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明」の数値相対論研究グループは、長年にわたり、連星中性子星の合体現象の研究を行ってきました。合体現象に伴う観測事実を正確に予測するには、一般相対論の基本方程式であるアインシュタイン方程式、一般相対論的な流体力学方程式、物質放出現象で重要な役割を担うニュートリノの輻射輸送方程式など数多くの偏微分方程式を、スーパーコンピュータ「京」のような最先端のスーパーコンピュータを用いて正確に解いて調べる必要がありますが、これらすべてを取り入れてシミュレーションを行うのが、最先端の数値相対論です。重点課題9の数値相対論研究グループは、「京」のおかげもあり、連星中性子星の合体については、世界で最も進んだ研究が行われてきました。その結果、今回の合体現象に対して、信頼性の高い理論的解釈が行うことができたのです。

当研究グループのこれまでの研究結果と、GW170817に対する観測結果を比べてみたところ、中性子星の内部状態を記述する物理(状態方程式)を適切に仮定すれば、図1に描いたように、合体後に大質量の中性子星が誕生し、その後大量の中性子過剰物質が噴出されるため、光学観測結果を無理なく説明できることがわかりました。このことは、発見された天体現象が、連星中性子星の合体であることの再確認になります。また大質量中性子星が、合体後ただちにブラックホールへと重力崩壊することなく、強力なニュートリノ照射源として物質噴出の間、存在し続けることが要請されるため、中性子星の状態方程式に制限が課されます(ニュートリノ照射源の必要性は、光学観測から示唆されています)。これは、これまで謎とされてきた中性子星の状態方程式の解明にも貢献する結果になりました。これらの成果は、最先端のスーパーコンピュータを用いて行う数値相対論研究の強力さを如実に示しています。

以上をまとめると、今回の重力波観測では、連星中性子星からの重力波の直接検出そのものに加えて、以下の2つの発見がありました。
・金、銀、プラチナなどの速い中性子星捕獲により合成される元素の起源天体は、長年に渡り未解明であったのですが、少なくとも一定の割合は、連星中性子星の合体を起源としていることが強く示唆されます。今後さらに新たな合体現象が観測され続ければ、連星中性子星の合体が主要な起源天体なのかどうか明らかにされると予想されます。
・今回のイベントでは、合体後に大質量の中性子星が誕生し、かつ太陽質量の数%にも及ぶ大量の中性子過剰物質が飛び散ったことが観測的に示唆されていますが(図1参照)、これは、これまで長年の謎だった中性子星の状態方程式に重要な知見を与えています。具体的には、球対称の中性子星の最大質量は、太陽質量の2倍よりも有意に大きいことが示唆されます。

このように、今回のイベントでは、連星中性子星からの重力波と光学対応天体現象の初観測のみならず、観測結果に対する数値相対論の結果を用いた解析を通じて、重元素の起源や中性子星の理解にも大きな進捗がありました。今後、重力波観測が進み、より精度の高い観測がなされれば、今回得られた事実がより強固に証明され、物理学および天文学における長年の未解決問題の解決につながることが期待されます。また観測のたびに、数値相対論による解析がその威力を発揮することでしょう。

図2:合体直前直後の重力波波形の予想図
縦軸は重力波の振幅を、横軸はミリ秒単位で表示した時間を表す。時刻0あたりで中性子星同士が合体している。

最後に、合体する連星中性子星からの重力波についてもう少し述べておきましょう。図2は、GW170817に対応する連星中性子星の合体直前直後からの重力波波形の予想図です。この重力波波形にも、中性子星の情報が反映されています。今回の観測では、残念ながら、中性子星の状態方程式についての情報を抽出するには重力波信号の振幅が十分に高くありませんでした。しかし、今後、より振幅の高い信号が観測されれば、図2のような数値相対論で計算した理論波形と観測された波形を比べることによって、中性子星の状態方程式の情報が読み取れる、と期待されています。近い将来、中性子星の謎の解明が、重力波観測を通じて成し遂げられるかもしれません。

柴田 大・京都大学基礎物理学研究所教授
2017年10月18日

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