サマースクール「クォークから超新星爆発まで」

2014年7月22日(火)~7月26日(土)に京都大学基礎物理学研究所で、4回目となるサマースクール「クォークから超新星爆発まで」が開催されました。京都大学教授の青木慎也(あおき・しんや)校長、23人の講師・ティーチングアシスタント(TA)33人の元、24人の受講生が数値シミュレーションを学びました。

1~2日目は格子QCDによりクォークの質量と核力を求めるQCDコース、3日目は求めた核力を利用して密度汎関数理論による原子核計算を行う原子核コース、4~5日目には超新星爆発における元素合成にチャレンジする宇宙コースが用意され、受講生は物質の階層を越えた最前線の数値シミュレーションを体験しました。各コースの初めには、最前線で活躍する研究者の講義があり、その後、実践講座に臨みました。

青木先生の挨拶

青木校長のあいさつ

初めに青木校長は、このスクール運営に関わる新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」(領域代表者・青木慎也、2008年度~2012年度)、計算基礎科学連携拠点、HPCI戦略プログラム分野5の紹介をし、素核宇宙分野の融合が進んでいる現状を示しました。そして「素核宇を解析的につなげるのは難しいですが、計算機の発展により、数値計算でつなげていくことができるようになりました。このサマースクールの目的は、素核宇分野融合の現場を研究を始める前の大学院生に実際に計算機を使って体験してもらい、このような分野があることを理解してもらうことにあります」と話しました。

実習を始める前に、スパコンにジョブを流せるようにしなければなりません。使用するパソコンのOSによって公開鍵認証にてこずった受講生もいましたが、 なんとか全員がスパコンにジョブを投げ、gnuplot(グニュプロット)と呼ばれるグラフィックツールを用いてグラフをかけるようになり、いよいよ実践講座QCDコースが始まりました。

応用編でポテンシャル散乱から位相差・散乱長を求めている様子。「グラフの切片をこの方程式に代入すると散乱長が求められるよ」

応用編でポテンシャル散乱から位相差・散乱長を求めている様子。「グラフの切片をこの方程式に代入すると散乱長が求められるよ」

初日はQCDコースです。まず広島大学教授の中村 純氏による「実践格子QCD準備篇」と題する講義がありました。中村氏は格子QCDの歴史から紐解き、格子QCDの基礎について話しました。続いて実践講座です。2012年7月に公開された格子QCD共通コード「Bridge++」を用いて、格子QCDによってハドロンの質量を求めます。初日は高エネルギー加速器研究機構(KEK)助教の松古 栄夫(まつふる・ひでお)氏、2日目は大阪大学准教授の石井理修(いしい・のりよし)氏が中心となり実習が進みました。

ドリップラインを探せ!

ドリップラインを探せ!

3日目の原子核コースは、矢花一浩(やばな・かずひろ)筑波大学教授の「量子多体問題と密度汎関数理論の考え方」と題する講義からスタートしました。矢花氏はフェルミ粒子多体系には一体描象が有効な多くの現象があることを紹介し、Hartree-Fock近似と密度汎関数理論の考え方を説明しました。また、分野のクロスオーバーについて「まずは自分の得意分野を持つことが大事」と語りました。続く実践講座では、密度汎関数理論による原子核計算の実習が行われました。理化学研究所の中務 孝(なかつかさ・たかし)准主任研究員、鷲山広平(わしやま・こうへい)基礎科学特別研究員、佐藤弘一(さとう・こういち)基礎科学特別研究員が中心となり、密度汎関数理論を用いて「ドリップラインを探せ!」「サマトリウムの形状そう転移を探れ!」という課題に取り組みました。

4日目からは宇宙コースです。京都大学准教授の前田啓一氏の講演の後、実践講座は理化学研究所准主任研究員の長瀧重博氏が中心となり、「人類は超新星1987Aのメッセージを読み解けるのか」をテーマに超新星爆発のシミュレーションを行いました。受講生は4グループに分かれ、FLASHコードを用いて爆発エネルギー、初期揺らぎ、ジェット度、空間解像度などのパラメータを変えて超新星1987Aの鉄の速度分布再現に挑戦しました。5日目の午前中に発表会が行われ、活発な質疑応答が行われました。

5日間のスクールを終えた受講生は「計算科学の横の繋がりができました。いつかこのメンバーで共同研究ができたらいいと思います」と話していました。
集合写真

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