宇宙磁気流体・プラズマシミュレーションワークショップ開催

3月5日(月)~6日(火)に千葉大学理学部2号館で、「宇宙磁気流体・プラズマシミュレーションワークショップ」が開かれ、11人の講演者を含めて、35人の参加がありました。

世話人の松元 亮治(まつもと・りょうじ)千葉大学大学院教授は、「このワークショップは2004年に作成・公開した『数値天文学テクニカルマニュアル』の増補版作成を一番の目的としています。受付でお配りしたマニュアル増補版原稿に対する意見をお寄せください。集約して改訂版を公開する予定です」と話し、ワークショップが始まりました。(「数値天文学テクニカルマニュアル」はシミュレーションを学び始める学生に、計算手法や解析方法、可視化の方法などを解説したマニュアル書です)。

宇宙磁気流体・プラズマシミュレーションは、太陽内部や星間ガス、ブラックホールの周りなどにできる降着円盤やジェット、それらの現象に伴う粒子加速などを研究の対象としています。これらの天体は大きさも生成過程も異なりますが、「電荷を帯びた粒子(荷電粒子)の集まり」という共通点があります。荷電粒子の運動は電場、磁場、重力、輻射、粘性などにより方向や速度が変化し、その変化が磁場の方向や強さ、荷電粒子全体の熱の伝わり方などに影響を与えます。このような荷電粒子全体を流体として扱うのが磁気流体シミュレーション、粒子として扱うのがプラズマ粒子シミュレーションです。


磁気流体ジェット形成のシミュレーション結果。色は密度、実線は磁力線を表す(画像提供:桑原匠史)


ブラックホールのまわりに形成される降着円盤の3次元磁気流体シミュレーション結果(画像提供:町田真美)

ワークショップでは磁気流体シミュレーション、プラズマ粒子シミュレーション、より高精度の計算が可能と考えられているブラソフシミュレーションの最新の手法についての基調講演の後、参加者のシミュレーション手法や結果の可視化、解析方法について情報交換を行いました。発表中にもどんどん質問が寄せられ、講演後も議論する姿が見られました。

宇宙磁気流体・プラズマシミュレーションを行うには、数千行にもわたるプログラムを作成する必要があります。それには時間がかかる上、技術も必要となるため、なかなか後進が育たない時期がありました。そこで、宇宙磁気流体シミュレーション初心者でも手軽に取り組めることを目的として、2002年に「CANS」というソフトウェアが開発されました。CANSの最大の特徴は、恒星風、太陽フレア、自己重力収縮などの問題設定(シミュレーションモデル)が多数用意されており、環境が整っていれば、すぐにでも結果を可視化するところまでたどり着ける点です。また、問題設定を改造することにより、実際の研究に使うことができます。今回のワークショップでは、CANSの改訂やCANSのプラズマ粒子シミュレーション版であるpCANSに関する発表もありました。これらの開発はHPCI戦略プログラム分野5がサポートしています。


CANSを用いた太陽コロナ質量放出現象のシミュレーション結果。色は密度、矢印は速度、実線は磁力線をあらわす。


pCANSを用いた2次元無衝突衝撃波のプラズマ粒子シミュレーション。左図は電子密度を表し、右図は電場x成分を表す。共に、上流のパラメタで規格化されている。

このワークショップでは、学生やポスドクなど若手研究者の活躍が目立ちました。HLLD法という計算手法を用いて行った宇宙磁気流体シミュレーションの計算例を発表した、千葉大学大学院理学研究科修士課程2年の朝比奈 雄太(あさひな・ゆうた)さんは、「今後、HLLD法の計算スキームをCANSに追加するだけでなく、2D、3Dの問題設定を追加する予定です」と、抱負を語りました。

テクニカルマニュアルは現在コメントを受け付けており、近いうちに改訂、公開される予定です。

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